ウルトラマンZが、初めて主人公ハルキと会話した時の日本語。基本的には問題のない日本語であるが、文法的には間違いというほどではないけれど、色々場に合わない表現が何ヶ所かある。この表現の微妙さは、ウルトラマンZが、AI的に日本語を習得していると考えるとつじつまが合うので、これについて見ていく。
【図1】ウルトラマンZとハルキの初対面会話シーン
微妙におかしな日本語
ついでにどうやら私もウルトラやばいみたい
ウルトラという副詞的な語が付いているからそちらに目が行くが、これは単なる口癖と考えれば、日本語としてはそれほど違和感がない。それより、「みたい」という少し子供染みた言葉遣いが気になる。これは、小学校から20代前半の話し言葉が元になっていると考えられる。
私もお前の力が必要なのでございます
「ございます」とは、丁寧すぎるけれど、「お前」ってその逆じゃん…となるが、ここでの、「お前」は、「御前」ということでしょう。つまり殿の御前のような使い方。となると、これは古典の表現が元になっているのかもしれない。古典と言っても、明治大正昭和程度であるが、ウルトラマンの言語情報収集は多岐にわたっている…が、偏りがありそう。
えっマジ、参りましたなぁ
「マジ」という語を使い、かつ「〜したなぁ」なんて言葉遣い、50代の話し言葉由来か?
地球の言葉はウルトラ難しいぜ
いわゆる若者言葉というやつか。言い回しが古い気もするが、ひと昔、ふた昔前のドラマ由来か?
さぁ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します
これは、単純に言い切る形の命令形「押せ」を使うべき場所。これが使われていない点が変なのだが、理解はできる。「押せ」という命令語は語気が強いので、マニュアル等にある実質的には命令的な表現「〜します」を使ったと。つまり、マニュアルでは、起動の際にスタートボタンを押させたい時、「スタートボタンを押します」と書いてあるが、ウルトラマンは、こんな感じのニュアンスで「トリガーを押します」を使っていると考えられる。これを思いついた制作スタッフの人凄いわ。
ご唱和ください、我の名を!ウルトラマンZ!
これも、言い切る形の命令形であるべきところが、そうなっていない。「押します」同様に、「呼べ!我の名を!」では語気が強いと思ったのでしょう。それで声を合わせて何かを言わせる時というシチュエーションから検索して出てきたのが、宴会の一本締めの発生だったと。こう考えれば、「ご唱和ください」も理解できる。
ウルトラマンZの日本語力の元
以上、ウルトラマンが日本語の色々な時代、世代に由来する言葉使いをしていることから、宇宙人であるウルトラマンZが、地球人(というか日本人)であるハルキと会話できるのは、ウルトラマンZ側にAI翻訳的な言語処理能力を体内器官もしくは体外の外部装置に保有しているからだと考えられる。ただ、ウルトラマンZ本人が「地球の言葉はウルトラ難しいぜ」と言っており、外部装置であったとしたも完全に自動翻訳というわけではなく、ウルトラマンZ本人が何らかの語句の選択を行なっているようである。また、今でこそ日本語が妙だが、こらからハルキを通じて地球人と関わることで、日本語力は向上すると考えられる。
脚本においてちゃんと考えられている意図した間違い
以上見たように、ウルトラマンZとハルキとの会話における日本語の微妙さは、ちゃんと理由があり、計算されている。さらに、脚本は、そこを丁寧に踏まえて描かれている。ハルキに「言葉遣いがちょっと変というか…」と言わせるために、かなり手の込んだことをしていることがわかる。素晴らしい。ウルトラマンZは、解釈しがいのある作品であると期待して観ていきたい。