アニメ成分補完計画

感想やまとめとは違う分析的なもの

【フルバ2nd】ep.20 「大丈夫ですか」


「フルーツバスケット」第14巻の後半からラストのエピソードが描かれている。完全なる由希くん回。ライトにあっさり描かれているが、由希の心が大きく動く重要回。しかし由希の心情はあっさり描くなぁ。逆に夾の心情の描写はベタベタな気がする。キャラと描写の熱の度合いを一致させているのかもしれない。

由希と翔、真知の共通点

母親との関係がうまく取れないこと。そして、それはリアルタイムで続いていること。由希と翔のやり取りの直後、由希が携帯許可を得るために母親と会い、「無駄使い…しちゃダメよ」と親みたいなセリフを言われ少し微笑む。母親が由希との関係が少しずつ近づけようとしていることを、由希自身が気づいた。由希の凍った心が少し溶け始めていることを自分で気づいた。由希も翔も真知も母親との関係がうまく取れない状況であるが、しかし、母親との関係は、翔が言うように、いつか「しゃーねえなって笑えりゃいいじゃんっ」という未来を願うことができる。ここでは、明示されないが、透は母親との関係が良好なまま、母親は亡くなった。もう母親との関係が変わることはない。由希と真知は似た立場にある。しかし由希と透は立場が違う。これは、由希は真知のことを理解できるが、透のことは理解できないという可能性がある。

真知のことを気遣う由希

生徒会室を荒らしたまま帰ったことを桜木直人になじられ、謝る際、真知は、こう言う。

ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。もうしません。もう二度としません。誓います

これを聞いて由希は、次のように言う。

"もうしない"なんて そんな言い方 もっと自分を追い込まないか…?"もうしない"ことが解決じゃないだろ どうしてするのかをお互いに理解しなくちゃ

これを翔に「いいこと言う〜!!」と茶化されるが、由希本人は、「…そんなんじゃないよ」と暗めなトーンで返す。この辺り、携帯承諾書のエピソードで母親との関係が少し進歩した由希だからこそ分かる真知の気持ちということか。

シンデレラ配役発表シーンの"間"

これはアニメならではの良い間。マンガでは、板書に配役が書かれているだけなので、これはアニメが断然良い!

由希のことを気遣う真知

生徒会室の一室に閉じ込められた際に慊人のことを思い出し動揺し始めた時、真知がドアを椅子で叩き壊して救ってくれる。その時真知はこう言う。

心細いのは嫌かと思って

先に真知の気持ちを推測して真知を救おうとした由希。そしてこのエピソードで由希を救う真知。真知は母親、由希は慊人という、血縁的に離れることのできない人間との間合いの取り方がプレッシャーとなっているという点で、2人は同じ悩みを持っていると言える。

なお、この「心細いのは嫌かと思って」というセリフは非常によくできたセリフである。由希はすでに高校生であり、閉じ込められても、緊急避難的な破壊的方法ではなく、真っ当な方法で開けられるのを待つことを期待される年齢である。真知は、その手順を待つことなく、ドアを蹴破るという方法で由希を救う。その言い訳として「心細いのは嫌かと思って」を使っている。ただ助けるというのでは、破壊行為は適切ではない。しかし、「心細いのは嫌かと思って」という理由の下ならば、ドアを蹴破るのはやむを得ない…な訳ないか。しかし一応、理由はつけている。「心細いと思って」でも「早く助けたいと思って」でもない、「心細いのは嫌かと思って」である。自分の気持ちと相手の気持ちの両方のバランスをとった理由なのである。

由希、翔、真知の母親との間合い

由希は、この第20話において、携帯電話の許可を得るために会った際に、母親らしさを見つけている。これは、母親が変わったというより、由希が母親の複雑な感情を理解できるようになった、つまり由希が成長したことによるもの。
翔は、すでに子供時代に、母親に対してハッチャケている。これにより、イエの概念の息苦しさから解放されている。翔は、自己が変わることで母親との関係を見直した由希とは違い、外に対して自らを主張することで、外との関係も修正しようとしている。

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【図1】幼少期にハッチャケる翔

一方、真知にはその機会がなかった。このため、翔がハッチャケたと同様の行動を、高校生になった現在、それも母親のいない場所で発動してしまっている。
この、真知の行動に対し、翔と由希は、それぞれの経験に基づくアプローチをしている。翔は、真知の突発的な行動を、自らの幼少期のハッチャケと重ねて見ている。しかし、行動を見せる相手が、本来向けるべき母親ではなく、学校内となっている。この点も理解しつつ、現時点ではそのまま見守る方針としている。
由希は、どうしてそうするかを理解しようと突発的衝動に駆られた行動に対する自己理解を深めさせようとする。第20話で3人の母親との関係について描くことで、母親という存在の大きさを描いている。これ、次に繋がるやつなので、非常に巧妙。

第20話の最初と最後

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【図2】神々しい透(由希の想像上の人物)

この第20話は、開始早々、由希の心の声で始まる。

似てると思った、俺とリンはひとつだけ似てると思った。求めたもの

そして、ラストは、由希の、翔に対してとも独り言とも取れる声で終わる。これは、マンガでも第14巻のラストに当たるシーン。第20話を通じて、翔の、真知の、それぞれの母親の話を聞くにつれ、自分の母親についても理解していく。そういう過程があって、ラストの次のセリフにつながっていく。

まだ…誰にも言ってない
本人にも伝えてないコトなんだ…情けなくてカッコ悪いコトなんだ
俺が彼女に求めていたのは…

最後の1行だけマンガと違う。マンガはここで、由希が"彼女"=透に求めた具体的な内容が書かれている。アニメは思わせぶりに引っ張るけれど、マンガは答えをあっさり書いて次回にという進め方となっている。この演出の違いはなかなか面白い。